なにかを口にしたとき、まず感じるのは、そのものの感触ではないだろうか。硬いか柔らかいか、しっとりしているか、ぱさぱさしているか、などなど。塩からいとか甘いとかいった判定は、たぶん、そのあとでなされる。しかし、われわれは、自分が食べているものの歯触り、舌触りをよく知っているから、ふだんは、触覚を意識しない。ご飯が妙に硬かったり、肉が筋だらけだったり、とにかく、いつもとちがうときだけ、触覚が働いていることを思い出す。余談だが、総入れ歯にした人は、食べ物の味が分からくなったと嘆くそうだ。われわれは、食べ物を、舌だけではなく、口のなか全体で味わっているらしい。
音楽を聴いていて、この弦の音は「つるつるしている」とか「ごつごつしている」と感じることはよくあるし、絵画を観ていて、「すべすべしている」とか「ざらざらしている」と感じることもよくある。こうした表現は、すべて触覚にもとづいている。 触覚以外の感覚に発した言葉、たとえば、「明るい」とか「うるさい」といった表現を、触覚に適用することはない。なにかを触って、「これは明るい手触りだ」とか「静かな感触だ」とかいう人は、まずいないだろう。しかし、逆に、絵画を観て、「重い色づかいだ」ということはあるし、音楽を聴いて、「軽やかな響き」ということもある。なにもカントを迂回しなくても、日常的な表現をすこし考えただけで、触覚の根源性は理解される。 (触覚にかんしては、ヘルダー Johann Gottfried Herder (1744-1803) がなにか書いていたと思う。たしか彫塑論だった気がする。学部生のころ斜め読みしただけで、よく覚えていないのが残念) (つづく)
by kalos1974
| 2005-07-07 21:22
| すこしまじめな考察
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