クライバー指揮、バイエルン国立歌劇場管弦楽団、ブラームス《交響曲第4番》ほか

9月15日(木)

今日はお休みなので、午前中、帰国直前に購入した DVD を鑑賞。

これは、1996年10月21日に、ミュンヘンのヘラクレスザール Herkulessaal der Residenz, München でおこなわれた演奏会を収録したもので、演目は、ベートーヴェン《コリオラン序曲》、モーツァルト《交響曲第33番》、それにブラームスの《交響曲第4番》。

バイエルン国立歌劇場 Bayerische Staatsoper (最近、州立歌劇場という表記も見られるが、バイエルン、とくにミュンヘンの人たちは、国立歌劇場と訳さないと怒るだろう。バイエルンはいまでもひとつの国であって、ベルリン中心のプロイセンやドイツとはちがうのだ・・・笑)のホームページによると 、クライバーは、1968年、《薔薇の騎士》でデビューして以来、この劇場で、260回以上の公演(オペラとアカデミーコンサート)を指揮したらしい。なお、最後の公開演奏会は、1996年の4月に、インゴルシュタットでおこなわれたとある。ということは、 DVD におさめられたコンサートは、非公開だったのかもしれない。


さて、映像を見て、驚いた。

「クライバーも老けたなあ・・・」。

手や首筋が老人になってる。それに、どこかつらそうな顔。1986年の5月、人見記念講堂で感じた若々しさは、かなり失われてしまっている。ときおり、独特の、やんちゃ小僧のような表情を見せるものの、やはり、老けこんでいる。う~ん、人間って、たった10年で、こんなに歳をとるものなのか・・・。1930年生れだから、クライバーは、このとき、66歳。仕方ないといえば仕方ない。

でも、この「老い」が、ブラームスの《交響曲第4番》には、ぴったりだったりする。指揮者をながめながら、「人間だれしも歳をとる。そして、ひとりで死んでいかなければならない」なんてことをおもった。

《交響曲第4番》は1884年に書かれはじめ、1885年の夏に完成された。ブラームスは52歳だった。1883年にはヴァーグナーが亡くなっている。ブラームスは、ヴァーグナーから非難されたが、それでも、ヴァーグナーをずっと尊敬していたという。その死を聞いたとき、「巨匠が亡くなった。今日は歌うものはない」といったという話ものこっている。敬愛するクララ・シューマンも60歳代なかば。そんなことを考えると、この曲には、人間が「老い」、死にゆくことが反映されているのかもしれない。

私自身、これまで、《交響曲第4番》に「老い」の影を見たことはなかった。いつも連想するのは、黄色い木の葉の舞うプラーター。外套の襟を立て、ひとりさまよう男。そんなイメージ。それは、守旧派のレッテルを貼られながらも、伝統的な構造のうちに独自性をもとめた作曲家の孤高かもしれないし、神が死んだ時代を、なにものにも頼ることなく、ひとりで生きていかなければならない近代人の寂寥感かもしれない。

クライバーの演奏には、そんな孤独にくわえて、「老い」の切なさが、にじみ出ている。いかにも体調のわるそうな表情を見ていると、気の毒になってくる。指揮が音楽についていけない箇所さえある。あのクライバーが・・・。「老い」は残酷だ。もちろん、映像を見ているからそうおもうのであって、これが CD なら、そんなことを感じたかどうかはわからない。

クライバーは、ブラームスの《交響曲第4番》を、1980年の3月にウィーン・フィルと演奏している。名盤の誉れたかい CD だけれど、実は、私、それほど気に入っていない。文句のつけにくい演奏ではあるが、きれいにまとまりすぎている。響きも洗練されている。でも、私が、この交響曲に期待する「感情のたかまり」が、すこしだけ、足りない。ブラームスの旋律に耽溺する指揮者にくらべると、まだ満足できるが、フィナーレにむけてもっと疾走してほしかった(その点で、共感できるのは、フルトヴェングラーの演奏だが、 CD で傍観者的に聴くと、少々、やりすぎの感じもする)。孤独に足をすすめる人間の決意を描いてほしかった。

それに対して、この演奏は、ライヴだからだろうか、音楽に推進力がある。型にはまらない自由がある。 CD にはない、一期一会の迫力のようなものを感じる。ウィーン盤とくらべると、練りに練られた演奏とはいえないだろうし、様式美のようなものに欠けるかもしれない。でも、その分、生き生きとしている。

もちろん、実演なので、オーケストラに、こまかなミスや、響きの厚みがいまひとつ足りないと感じる箇所がないわけでもない(そういえば、人見記念講堂でも、あまりの速さに、木管? が音をはずしていた)。しかし、そうはいっても、バイエルン国立歌劇場管弦楽団はミュンヘンのほこる一流オーケストラのひとつ。それに、いわば、クライバーの手兵である。とくに問題は感じないし、このオケの優雅な響きは特筆されてもよい。


この DVD 、やたらクライバーのアップがおおい。なので、クライバー好きの方にはお薦め。指揮棒で音楽を描くような動きや、左手をふりまわす姿も健在。つかれた表情も、会心の笑みも見ることができる。それに、もちろん、オーケストラも映るので、視覚的にボウイングのズレなど確認できて面白い。買ってよかったとおもった DVD である。


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by kalos1974 | 2005-09-17 14:14 | CD・DVD
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